座敷童子
あれは岩手県の山間の道を、車で走った夜のことだった。
車の前を、子供の影が横切ったので、慌ててブレーキを踏んだ。
その影は、すぐに道の横の茂みに走り込んだ。
こんな時間、周囲に民家もない。
不審に思って追いかけると、そのすぐ先の木の下で、着物を着た子供がうずくまっていた。
何かブツブツ言っているので、注意深く聞いていると。
「オラは人間を幸福にしたい。人間の笑顔が好きなんだ。だけど人間は妬みや嫉み、お互い傷つけ、争い合って、自ら不幸になっていく。だから、オラの行く先がない」
そう言いながら泣いているのだ。
星のぴかぴか光る夜だった。
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時の狭間
昨日と明日を飛ぶ折に、時の狭間で迷子になった。
迷子のままでそのまま暮らし、迷子のままであなたに会った。
迷子のままであなたを愛し、迷子のままでここにいる。
時の狭間の物語。
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墨
これは夜の闇を集めて作った墨でございます。
夜に恐怖を感じた者には恐怖の、夜に懐かしさを感じた者には懐かしい香りがします。
もちろん、愛しい方と過ごした夜の匂いも・・・
さて、お代はあなたの「魂」ですが、買っていかれますか?
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all of the world
昔、世界はひとつでした。
海も空もあなたも私も。
でも、それではつまらなくなって、世界はいくつかに分かれた。
分かれた世界はお互いの姿が違うので、楽しくなって笑い合った。
「面白いねえ、もっと多くに分かれてみよう」
その時世界は知らなかった。
分かれたものは二度とひとつになれないことを。
それは戻れない道だということを。
さて、今でもこうしてバラバラに分かれて、愛し合ったり、憎み合ったり、支えあったり、傷つけ合ったりしている私たちは。。。
幸福でしょうか?
不幸でしょうか?
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言霊食み
暮らした相手は「言霊食み」で私の言葉を食べて過ごした。
最初は他愛のない言葉、やがて必要な言葉をあげた。
私はだんだん言葉をなくし、無口な時が多くなる。
彼も食むべき言霊をなくし、日毎に痩せて悲しげだった。
あれはとても晴れた日で。
私は大事に取っておいた、最後の言葉を彼にあげ、泣く泣く彼の元を離れた。
最後の言葉は「愛してる」
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螺旋階段
「さて、そろそろ行くか」
オレは一休みした後、立ち上がってまた階段を登り始めた。
見上げると、果てしなく上まで続く塔。
その内側に設置された螺旋階段。
こつん、こつん。
塔の下のほうから、規則正しい足音が響く。
まだ、その足音は遠く、しばらくは追いつかれそうもない。
とはいえ、以前よりはだいぶ近くなった。
こつん、こつん。
とにかく、あれに追いつかれたらヤバい・
オレは薄々気がついていたのだ。
この塔が「人生」で、あの足音は「死」であるということを。
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遠距離恋愛
「だって、ありえなくない?あんな遠距離恋愛」
そう彼女は言って前髪をかきあげた。
上目遣いでオレを見る
「だからといって。。。」
「硬いこと言わないの。今夜は彼のことなんか忘れて、ゆっくり、ね」
んー、美人は美人だし、依存はないけれど。。。
これを知ったら、付き合っている恋人達も含めて、幻滅する人多いだろうなあ。
「早くぅ」
彼女が、呼ぶ。
まったく、織姫がこんな性格だなんて。
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お礼
彼女の誕生日プレゼントを考えながら歩いていたら、青い紙のようなものが落ちていた。
50cm四方ぐらいのもの。
拾ってみると、表が青くて裏が黒い。
「あ、そこにあった」
上の方で声がしたので、見上げてみると天使がいた。
「最近、接着力が弱くて、時々落ちるんです」
見上げてみると、青空の一角が切り取られたように、四角く黒くなっている
「…これ、空なんだ」
「はい、助かりました。これお礼です」
箱をもらった。
天使が飛び去った後、開けてみる。
変化しながら七色に光っているものが入っていた。
…オーロラの欠片?
こりゃプレゼントにちょうどいいや。
プレゼント代儲け♪
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